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東京高等裁判所 昭和28年(う)1550号 判決 1953年9月14日

控訴人 被告人 茂木雅男

弁護人 岡本繁四郎

検察官 横川陽五郎

主文

本件控訴を棄却する。

当審の訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は弁護人岡本繁四郎作成の控訴趣意書の通りであるからこれを引用し、これに対し当裁判所は次のように判断する。

論旨第一点について。

原判決が罪とるなべき事実の第二において、被告人は判示偽造の取引高税印紙を行使の目的を以てその情を知らない岩崎信一郎に擅に一括して交付し、と認定し、それに対し印紙犯罪処罰法第二条第一項前段を適用したことは所論のとおりである。惟うに印紙犯罪処罰法第二条所定の偽造印紙交付罪は行使の目的を以て偽造の印紙をその情を告げ又は情を知つた他人に引き渡すことによつて成立するものと解すべきことは刑法犯における偽造通貨交付罪又は偽造有価証券交付罪等と何等異ならないものというべきである。然るに原判決挙示の証拠を綜合すると原判決認定の如く被告人は行使の目的を以て、判示偽造印紙を情を告げずに情を知らない岩崎信一郎に引き渡したことが明らかであるから、被告人の右所為は偽造印紙交付罪を構成しないことは所論のとおりであるが、偽造印紙を情を告げずに情を知らない者に引き渡せば、真正の印紙として使用される虞のあることは当然予想されるところであるから、偽造印紙を情を知らない者に引き渡す所為は本来偽造通貨行使罪又は偽造有価証券行使罪等と同様偽造印紙行使罪を以て論し得べき性質のものであるが、印紙は通貨又は有価証券の如く転々流通することを目的とするものではなく、印章若しくは署名等と同様使用自体を目的とするものであるため、印紙犯罪処罰法においては特に行使という文言を避け、使用又は不正使用という文言を用いたものと考えられる。従つて印紙犯罪処罰法第二条第一項所定の偽造印紙等の使用罪は実質上の行使罪を規定したものと解すべきであるから、被告人の本件偽造印紙引き渡しの所為は印紙犯罪法第二条第一項前段にいわゆる偽造印紙使用罪を構成するものといわなければならない。故に原審が右行為を偽造印紙交付罪と認定したのは事実の認定を誤つたか若しくは印紙犯罪処罰法の解釈適用を誤つたものであるが、しかし偽造印紙使用罪にせよ同交付罪にせよいずれもその態様を同じくし同一法条に規定された犯罪であつて、これに対する法定刑も亦同じであり、情状においても特段の差異があるとも認められないから右の誤りは結局判決に影響を及ぼさないものと認むべく、従つて原判決を破棄するに当らない。論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 小中公毅 判事 工藤慎吉 判事 渡辺辰吉)

控訴趣意

第一点原審判決には法の適用並に解釈の誤りがあつてそれは判決に影響を及ぼすこと明らかである(刑訴第三八〇条)。

一、原審判決の理由(一)罪となるべき事実の第二によれば「被告人茂木雅男は同年四月下旬頃肩書同被告人自宅において右偽造した取引高税印紙の中額面二十円、五十円を取り混ぜ一万八千枚額面約六十万円を行使の目的をもつてその情を知らない栃木市大町十六番地岩崎信一郎に擅に一括して交付し」と認定しさらに適用法令の部に於いて「第二 印紙犯罪処罰法第二条第一項前段」を適用して交付罪の成立を認めた。

二、しかし交付罪の交付とは相手方に偽造又は変造の情を明かして交付することである。ところで被告人は本件の偽造の取引高印紙を岩崎信一郎に交付するに当つて偽造という情を明かしていない。このことは原審に於いての被告人及び右岩崎の供述証言によつて明かである。従つて交付罪は成立しない。これ大審院の判例の解するところである(昭和二年六月二十八日大審院判決、大審院刑事判例要旨集刑法上三七一頁最高裁判所事務総局編法曹会昭和二十六年八月十五日発行)。また学説も(植松正著刑法学各論九一頁小野清一郎刑法概論二八九頁)しかりである。ところで印紙犯罪処罰法は交付のみを罰し行使罪の独立権は認めていない。ここに原審の法の適用解釈の誤りありこの誤りは判決に影響あることけだし明かである。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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